オーサワの高野豆腐

大豆の風味を味わう生搾り製法

いま見直したい、すぐれた伝統食材

中央アルプスの山々に抱かれた飯田の街並み。

ゆっくりと時間をかけて水分を抜いていくことで

うまみがギュッと凝縮されます。

特集

高野豆腐

大量の水が必要な豆腐づくりにあって、井戸から汲み上げた中央アルプスの伏流水をふんだんに使用して高野豆腐を製造している「信濃雪」。高野豆腐では国内唯一の“生搾り製法”で、昔ながらの手づくりに限りなく近いかたちで高野豆腐をつくっています。

国産大豆から抽出した豆乳のみを使っているということだけでなく、消泡剤・膨軟剤不使用という点でも大変希少な「オーサワの高野豆腐」。大豆自体の滋味深さ、しっかりとした歯応えの、昔ながらの手づくり高野豆腐特有の味わいです。その実現のためには、職人たちの大変な手間ひま、工夫と技術、そして情熱がありました。

文/野村美丘(photopicnic)
撮影/坂井竜治

高野豆腐
大豆の風味を味わう生搾り製法 いま見直したい、すぐれた伝統食材

つくり手の現場から

ー オーサワの高野豆腐


偶然の贈り物


寒冷地が生んだ

 豆腐を凍結させ、じっくりと低温熟成したあとに乾燥させた高野豆腐。凍み豆腐、凍り豆腐、氷豆腐など、呼び名が複数あることでもわかるように、全国のさまざまな地域で食されてきた歴史があります。高野山の僧侶が精進料理として利用した、中国から弘法大師が持ち帰り国内に伝えた、農家の副業としてつくられていた、はたまた伊達政宗が兵糧食として開発したなど、その発祥の起源にも諸説あり。いずれにしても、雪国の冬の厳しい寒さによって偶然に凍ってしまった豆腐が発見され、その味や食感のよさ、そして長期保存できる利便性から人為的に生産されるようになった、ということのよう。

 高野豆腐の製造メーカーは現在全国に4社、そのすべてが長野県にあります。なかでも「株式会社信濃雪」は、〝生搾り製法〞の豆乳を使って高野豆腐をつくる唯一のメーカー。「このあたりでは高野豆腐を〝凍み豆腐〞と言うんですよ。甲州弁では寒いことを〝凍みる〞と言いますからね」と教えてくれたのは、同社取締役社長の松島晴実さん。

「昔は農家の閑散期である冬にお豆腐を藁で縛って軒下に吊るし、夜の寒さで凍らせて、昼間の暖かさで溶けたのを、夜になったらまた凍らせて――と繰り返すことで高野豆腐がつくられていました。うちでは、そうした昔ながらの手づくりに限りなく近いかたちで生産しています」

「オーサワの高野豆腐」の原材料の国産大豆。
「オーサワの高野豆腐」の原材料の国産大豆。井戸で汲み上げた中央アルプスの伏流水でひと晩浸漬したあと粉砕し、生搾り製法で豆乳を抽出する。
泡が落ち着いたら、にがりを打つ。“寄せ士”の経験や勘が必要。
豆乳が凝固する際の「花が咲く」様子を見極める。
煮沸中の豆乳からとめどなく泡が出てくるのは、消泡剤不使用のため。

生搾り製法の豆乳とにがりのみ


オーサワの高野豆腐の原料は

 高野豆腐をつくるには、まず豆腐をつくります。煮沸した大豆を搾って豆乳とおからに分けるのが現在の一般的な製法。対して信濃雪が行っているのは、生の大豆を搾って豆乳とおからに分けてから、豆乳だけを煮込むという〝生搾り製法〞。熱が加わる前の大豆は繊維が硬く、たくさん搾ることができません。つまり歩留まりの非常に低い、利益を度外視したつくり方。しかし一般的な製法に比べ苦みや渋みが少なく、大豆本来の甘みや旨みが強く、コクと豊かな風味が味わえる製法なのです。

 さらに、豆腐の製造過程においては消泡剤を使うのが一般的。これは豆乳を煮沸する際に出る大量の泡を消し、ムラなく煮えるようにすることで、製造効率を上げるのが目的です。そして、豆腐から高野豆腐に加工する段では通常、膨軟剤を入れます。こちらは家庭での水戻しの時間を短縮し、食感をやわらかくするのが目的。この2種類の添加物を入れるのが高野豆腐の製造のセオリー。そのどちらも用いていないのが「オーサワの高野豆腐」です。

中央アルプスの伏流水
長野県飯田市を流れる天竜川。信濃雪の工場で使われているすべての水は、天竜川にも流れている中央アルプスの伏流水だ。
にがりを打ったあとの豆乳を、寄せ鍋に入れて成形する。
4段階に分けてプレスして水分を抜いていき、最終的に数センチの厚さに。
水分を抜いた豆腐を裁断したあと、凍結、熟成へ。
「白い豆腐は凍結すると、大豆の色に戻ります」(吉澤専務)。


〝寄せ士〞の勘と経験がものをいう


泡と格闘するスペシャリスト

 高野豆腐の製造過程で最重要にして最難関なのが、豆乳の煮沸と凝固の工程。工場に伺って、実際の作業の様子を見せていただきました。
「豆乳を煮るとたくさんの泡が立って、どんどん膨らんできます。泡の立ち具合を確認しつつ、それを押し込むようにして、丁寧に撹拌しながらムラがないよう煮込んでいきます」そう教えてくれたのは吉澤希彦専務。次から次へと溢れ出てくる驚くべき量の泡との、それはまさに格闘です。

 大量の泡が落ち着いたら、にがりを打ちます。この作業が高野豆腐づくりの肝。豆乳が結晶化し固まり始め「花が咲く」ような状態になるのを見極め、にがりを打つ量や頃合いを計ります。いっときも目を離せない集中力と経験、センスが必須。「社内認定した〝寄せ士〞だけができる作業です。打つのが早いと固くなりすぎてしまうし、逆に遅いと固まらない。機械化できればいいのですが」と松島社長が言うと、「消泡剤を使えばロスは出ないし、効率もアップします。添加物を使わずにつくることにこだわればこだわるほど、手間がかかります」と吉澤専務が続けます。「手間をかけてでも、必要とする人がいるかぎり、つくり続ける」と情熱を傾ける職人魂があってこそ、完成する商品なのです。

 にがりを打ち終わった豆乳は〝寄せ桶〞に入れ重石をして、時間をかけて少しずつ、4段階で圧力をかけていきます。寄せ桶いっぱいに入っていた豆乳からだんだんと水分が抜け、ついには数センチの厚みの白くてかたい豆腐に。これを凍結させたあと、低温熟成させます。「たんぱく質が変性して豆腐がかたくなり、海綿状の組織になるまで、20日間ほど寝かせます」と吉澤専務。

 解凍、脱水を経たら、さらに薄くスライスします。膨軟剤不使用のため戻した時にやわらかくなりにくい、というのがその理由。しっかりとした歯応えを感じられるこの薄さもまた「オーサワの高野豆腐」の大きな特徴といえるでしょう。

 そして仕上げ。第1乾燥室でまず半乾きにし、第2乾燥室でひと晩かけて、温度と湿度を少しずつ下げながら完全に乾燥させます。ゆっくりと時間をかけて水分を抜いていくことで、うまみがぎゅっと凝縮されます。そして豆腐の水分をしっかり抜き、割れないようにするためには、職人の高度な技術が必要。こうして、大豆から製品になるまでひと月ほどもかかって、やっと「オーサワの高野豆腐」の完成です。

中央アルプスの山々に抱かれた飯田の街並み。


贅沢の極み


ピュアな高野豆腐は

 大豆イソフラボン、たんぱく質、鉄分、食物繊維などの成分が含まれている、植物性たんぱく質の高野豆腐。「生搾り製法と消泡剤・膨軟剤不使用の『オーサワの高野豆腐』をつくれるのはうちだけ。スペックとしてこれ以上のものはありません」と松島社長は胸を張ります。

 「最近は学校給食でも推奨されていますし、マクロビオティックでは重宝されている食材です。改めて見直されてきている感もありますが、もっと広く高野豆腐の価値が浸透してほしいですね」

 それ自体が凝縮された旨みの塊であるうえに、スポンジのように水分や旨みをたくさん吸ってくれるので味しみがよく、料理を下支えしてくれる頼もしさがあります。煮るだけでなく、炒めたり揚げたりしてもおいしく、また動物性食品を使わずともボリュームのある一品がつくれるという点も魅力。そして、ローリングストックに最適な保存食としての有益性も昨今、改めて注目したいポイントです。情熱と時間を惜しみなく注がれた栄養の宝庫である高野豆腐はいま、新しい視点で見直したい伝統食です。

株式会社 信濃雪

代表取締役社長

松島 晴実

生産本部・総務部専務取締役

吉澤 希彦

取締役営業部長

新井 健

高野豆腐づくりが盛んであった長野県の、飯田市にて1951年に創業。

消泡剤不使用の高野豆腐の製造を、5年間の試行錯誤を経て2010年に開発実現。

現在、生搾り製法で高野豆腐を生産する国内唯一のメーカー。

高野豆腐のほか、油揚げ、惣菜各種を製造する。


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