オーサワなたね油ができるまで

自然を搾る

伝統をいただく

特集

近年、健康や美容への良い影響があるとして、「油」への注目が高まってきています。とはいえ、「太る」「高カロリー」「ダイエットの大敵」……といったマイナスイメージが強いという方も、まだ多いのではないでしょうか。
一言に「油」といっても、サラダ油やオリーブオイル、ごま油など種類はさまざま。同じ種類の油であっても、作り方や原料には大きな違いがあります。どのような油を、どんなふうにカラダに摂りいれるのかということによって、カラダへの影響も大きく変わってくるといえます。

マクロビオティックでは、調理に利用する「油」はなたね油とごま油を基本に、「圧搾法」と呼ばれる伝統的な製法で作られたものを使います。

今回の特集テーマは「油」。良い油がどのように作られているのか、油の上手な摂りいれ方などをご紹介していきます。

文/裏谷文野

撮影/隼田大輔

つくり手の現場から

ー オーサワなたね油・えごま油

次の世代に繋いでいく

受け継がれてきた伝統を

菜の花の種子を原料とする、美しい黄金色をしたなたね油。古くから、灯火用としても用いられてきた、私たちの暮らしとなじみの深い油です。中でも「玉締め圧搾法」という昔ながらの製法で作られた油は、素材の風味と香りが引き立ち、とびきりの美味しさがあります。
今では多くの製品が化学溶剤を使った大量生産によるものである中で、国内の農薬不使用の菜の花畑のなたねを原料に、手間暇かけて搾り出す伝統製法による油は、大変希少です。

そんな伝統製法を受け継ぎ、福島県・二本松で「オーサワなたね油」を製造しているGNSさんを訪ねました。福島に代々続く穀物商に生まれ、幼い頃から食と自然の大切さを身近に感じてきた社長の廣田裕介さん。20年ほど前に初めて行った韓国で、医食同源を大切にする豊かな食文化に大きな影響を受けたそう。

「お肉をたくさん食べるけれど、葉野菜や穀物、豆、雑穀も一緒にたっぷりバランスよく摂りいれる。日常的に食を大事にしている食文化を目の当たりにしました。中でも低温焙煎のえごま油には、あまりの美味しさに感銘を受けました」

日本に戻った廣田さんは、地元・福島で昔からえごまが身近に作られていたことを知ります。

「地元ではえごまのことを『じゅうねん』って言うんです。自分の家の畑で少しだけ作って、実をフライパンで煎って、野菜と和えたり、うどんのつけ汁に入れたり。祖母が『じゅうねん食べると10年長生きする』とよく言ってました。身体に良いものだっていうことを皆、自然に知っていたんですよね」

郷土料理として親しまれてきたえごまを地域の特産物として生産し、地元産のえごま油を搾りたい。持続可能な農と食を目指す廣田さんの取り組みはそこから始まりました。その中で、オーサワジャパンより伝統製法によるなたね油づくりを依頼され、取り組む決心をします。

「どんな業界でも同じですが、今は大量生産の時代。手間も時間もかかる伝統製法は生産性が悪くて、みんな辞めていってしまうんです。でも、長く受け継がれてきたことが失われてしまうのって寂しいじゃないですか。実家も150年続く製粉業をやっていて、そういう歴史を、少しでも長く残していくというのは、僕の使命の一つかなと思っています」

伝統製法による油づくりを始めるにはさまざまな苦労があったそう。

「玉締めによる圧搾法、木桶での蒸し、手漉き和紙での、ろ過の製法。試行錯誤を繰り返して、伝統的な3つのプロセスを取り入れた、僕らなりの製造プロセスをようやく確立することができました」

郷土料理として親しまれてきたえごまを地域の特産物として生産し、地元産のえごま油を搾りたい。持続可能な農と食を目指す廣田さんの取り組みは20年前に始まりました。以来、GNSでは油をはじめ雑穀の生産・加工を幅広く手がけ、今は伝統製法によるなたね油づくりにも力を入れています。今回は、そんななたね油の話をお聞きしていきます。

How is rapeseed oil made?

オーサワなたね油ができるまで


step 1

原料…国産の農薬不使用栽培のなたねを使用

step 2

低温焙煎…低温で時間をかけ、じっくりと香りが出るまで煎り上げ、すり潰します。

step 3

木桶蒸し…木桶に入れてスチームで蒸すことで圧搾しやすくし、油の質も上げます。

step 4

玉締め圧搾…鉄玉で原料を押し潰して油を搾る圧搾製法。一番搾りのみを製品に使用。

step 5

ろ過…圧搾後の上澄み油を地元福島の

「上川崎和紙」を使用してろ過。

圧力をかけず重力だけでゆっくりとろ過することで、まろやかな味わいの澄み切った油に。

その後専用の機械で一本ずつ瓶詰めします。

丁寧に油を絞り出す

自然の力を利用して

工場に足を踏み入れるとなんとも香ばしい、いい匂い! 青々とした菜の花を思わせる様な、ふくよかで滋味深い香りで空間が満たされています。

「なたね油の原料は菜の花ですから、菜っ葉の香りがするんですよね。いわば、菜の花の香りがするフレーバーオイルですね」

なたね油づくりは、まず原料となる菜の花の種子を「焙煎」することから始まる。

黒く小さな種子の粒を焙煎機の中で攪拌しながら、低温でゆっくり時間をかけて香りが出るまで煎った後、ローラーですり潰す。すり潰したなたねは、すぐに工場奥にある木桶の中に入れ、「木桶蒸し」を行います。蒸気で蒸しあげる工程は、圧搾をしやすくするための大事な下準備のひとつ。

木桶いっぱいにこんもりと盛られていた原料が、水分を含みながら勢いよく熱々の湯気をあげています。10分ほどじっくり蒸したらすぐに木桶から出して、かき混ぜる。若い職人の二人が、手際良く作業を進めていく。「原料に水蒸気を通すことで、油が抽出しやすくなって、仕上がりも良くなるんですよ」と工場長。

蒸した原料は、いよいよ玉締め機の中へ。円筒形の玉締め機の上部に原料をセットすると、内部にあるステンレス製の大きな球が下から上へと、およそ600kgの力で圧力をかけて原料を押し潰して、油が搾り出される。黄金色に輝く搾りたての油の美しさに、思わず歓声をあげてしまいました。特別に味見をさせていただくと、まろやかな油のうまみと、後味のフレッシュさに感動。

「玉締め」という名前の由来は、石でできた大きな球を使って、その重さで油を搾っていたからという説や、搾った後の粕が球のようだからという説など、諸説あるそう。

「一度に圧搾できる原料は6kg。しかも一番搾りだけを使うので、本当に少量ずつしかつくれないんです。一回一回手作業で、何度も繰り返しながらつくっています」

伝統の製法を、その本質を守りながら現代に合わせた形で受け継いでいく、廣田さんの真摯な思いが伝わってきます。そしていよいよ最後の仕上げ、「ろ過」の工程に。玉締めした油をタンクの中で静置させたあと、その上澄みを手漉き和紙によってゆっくりとろ過していく。

「玉締めに挑戦するかどうか悩んでいた時に、同じ二本松の上川崎地区が1000年以上も歴史のある手漉き和紙の生産地だということを知りました。地元の和紙を使って伝統的な油作りができる! と、かなり背中を押されましたね」

すぐに生産者と連絡を取り、油のろ過に最適な和紙を吟味して選んだそう。厳選した地元産の手漉き和紙を筒状にし、その中に搾った油を少しずつ注いでいく。ぽたりぽたりと自然の力にまかせ、時間をかけてろ過される雑味のないなたね油。一本一本瓶詰めして、完成です。

地元に還元する循環

地元産の素材を活かし

「油は人間が生きていくうえで重要な食材のひとつ。より上質な良い油を少量、お料理に合わせて使っていただけたら油屋としては嬉しい限りですね」

半年栽培の穀物が多い中、なたねは1年サイクルの農作物。夏に種を撒き、冬を越して雪解けとともに発芽、生育段階を経て再び夏に刈り取られる。大地のエネルギーをたっぷり蓄えて発芽する生命力の高いなたね。その成分を損なわないよう、手間暇かけて作り出される伝統製法によるなたね油は、美味しさはもちろん、カラダにも優しい、まさに"良い油"。
しかも、廣田さんの工場では搾ったあとの油粕を砕いて肥料にし、ふたたび畑へと循環している。

「大量生産で搾った油の粕に比べて油分の含有量が多くて栄養たっぷりなので、生産者さんからもすごく人気です。商品を作る時に工場から出た雑穀の糠や油粕は100%無駄なく畑に還して、良い畑を一緒に作り、畑から作物を収穫して、それをふたたび商品にして届けていく。そうやって循環させていくためには、やっぱり商品が『美味しい』ことをしっかり伝えていくことが大事なんですよね。自分たちだけでなく、地元地域と一緒に、生産、加工、流通、販売を連携させて循環させていけるように、持続可能な農業や食のあり方を目指していきたいです」

先人たちの製法を受け継ぐだけでなく、「食卓」に届けること、次世代にもつなげていくことを見据えて様々なプロジェクトに取り組む廣田さん。

「僕らは小さな工場だけど、一度途絶えようとした伝統をなんとか自分たちなりに、後世に受け継いでいる、そんな自負を持ってやっていこう! と、若い社員たちといつも話しています。彼らが毎日搾ってくれている油を、色々なシーンにお届けできている。大変で地道な作業だけど、やりがいを持ってもらいたいなと思っています。これからも食の町工場として、長く続いてきた伝統を、現代の需要に落とし込みながら発信していきたいですね」

伝統を守るだけでなく、次の世代につなげていく。自然な循環が、良質な油づくりを支えています。

オーサワなたね油ができるまで

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廣田裕介さん

株式会社 GNS / 代表取締役社長

2005年、前身である株式会社グローバルナチュラルサイエンスを設立。 〝日本の農と 食を支えられる穀物フードカンパニー〟を目指して、製油、穀物、製粉、農産などの事業、 食品ブランド「たなつもの」プロジェクトなどを幅広く展開している。

https://global-n-s.co.jp/

マクロビオティックと油

「油」と「脂」のちがい

食べ物に含まれる栄養素の中で、特に私たちが生きていくために必要なエネルギー源となる「タンパク質」「炭水化物」「脂質」は、三大栄養素と呼ばれています。

「脂質」とは、いわば「油(油脂)」のこと。細かく分けると、常温で個体となる主に動物性の「脂」と、常温で液体となる主に植物性の「油」に分かれます。

魚の油も常温では固まらないので「油」に含まれます。同じ脂質でも、主成分である「脂肪酸」の種類が異なるため、カラダへの働きにも大きな違いがあります。

いわゆる「脂」には「飽和脂肪酸」が多く含まれ、摂りすぎは健康にマイナス。

植物油や魚油などの「油」は、「不飽和脂肪酸」を多く含み、その一部は「必須脂肪酸」として健康にとても重要な役割を果たします。

摂り入れる

上手に選んで

マクロビオティックでは、バターなどの動物性の「脂」はあまり摂らず、植物性の「油」を使います。とはいえ同じ植物性であっても作り方は様々。大量生産では、薬剤を使い化学的に油を抽出するのに対して、伝統製法である「圧搾法」は、できるかぎり原料の風味と栄養を損なわない自然な方法で油を搾ります。

マクロビオティックでは主に、伝統製法で作られたなたね油とごま油を基本とし、調理をする際はこの二つを1:1の割合で合わせた「合わせ油」を用います。
単体で使うよりも必須脂肪酸をバランスよく摂れるうえ、風味も豊かになります。

また、マクロビオティックの特徴のひとつには、食べ物の特性を知り、季節や体質・体調に合わせてバランスよくいただく「陰陽調和」の考えがあります。ここでは油は「陰性」なので、使い方や使う量を調整して摂りいれるのがおすすめです。

油は加熱することにより、野菜の持つアク気などの陰性さを陽性にし、素材のうまみを引き出す働きもあるので、野菜の天ぷらなども美味しく仕上がります。また、加熱した油は体を温めてくれるので、冬の寒い時期には油を使った料理を少し増やすのもいいでしょう。
一方、えごま油などに多く含まれるαリノレン酸は熱に弱いため、加熱せずにドレッシングなどに生で使うのがおすすめです。

季節や体調に合わせて油を選んで、楽しみながら身体に摂りいれてみてはいかがでしょうか。

POINT 油の秘訣


1

油を控えるのではなく、油を選ぶことが大切!

2

料理使用や生食など油の特性を最大限に生かす

3

油の酸化にも気をつけよう

油の栄養素、必須脂肪酸とは?

【オメガ 6 とオメガ 3】

エネルギー源や細胞膜の材料となり、私たちが生きていくうえで欠かせない「脂肪酸」。その中でも、リノール酸に代表される「オメガ6脂肪酸」と、αリノレン酸に代表される「オメガ3脂肪酸」は、体内で合成することができず、食べ物から摂る必要があるため「必須脂肪酸」と呼ばれています。オメガ3とオメガ6は相反する働きによって体内環境を一定に保つため、両者をバランスよく摂ることが大切です。


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