オーサワの杉桶仕込み醤油

「杉桶」が育む小豆島のおいしい醤油

杉桶が息づく蔵

布を使って諸味を濾す

特集

醤油

食の基本調味料である醤油。刺身、煮物、焼き物、揚げ物に。ドレッシングやソースに。さまざまな料理を名脇役として支え、その風味になんだかほっとする。口にしない日はないほど、私たちの食卓には欠かせない存在です。

主な材料は、大豆と小麦と塩。しかし発酵によって数百種もの成分が生まれ、豊富な栄養素となります。材料の比率、作り方、発酵期間など条件の違いから、JAS 規格では濃口醤油・淡口醤油・再仕込醤油・たまり醤油・白醤油の5 つに分けられ、地域によって好まれる種類や風味も変わるのが醤油の奥深いところ。

今号のLM では、千葉や兵庫に次ぐ代表的な産地のひとつである香川県・小豆島を訪ねました。

文/柳澤智子

撮影/坂井竜治

つくり手の現場から

ー オーサワの杉桶仕込み醤油

小豆島のおいしい醤油

歴史ある「杉桶」が育む

「小豆島醤油の特徴は、杉桶で醸(かも)す環境が残っていることなんです」と話されるのは、丸島醤油株式会社の社長を務める山西健司さん。天然醸造の『オーサワの杉桶仕込み有機醤油』をつくっていただいている蔵元です。

 

 17世紀前半から醤油づくりが盛んな小豆島。歴史的に、原料である塩の生産地だったこと、船の要衝として港が発達しており、大豆や小麦が入手しやすかったこと。さらに大阪など商業地への輸送がしやすかったことなどから、江戸から明治にかけては400軒もの蔵元が並ぶ一大産地に。現在は、18軒の蔵元が醤油づくりに精を出しています。

 そのなかで、1950年に創立された丸島醤油。杉桶仕込みという伝統を守り続けてきた蔵を案内していただきました。 

「古式本醸造諸味蔵(こしきほんじょうぞうもろみぐら)」と看板がかけられた蔵。扉をくぐると、圧倒的な光景が。薄暗いなかに見上げるほどの巨大な「杉桶」がいくつも立ち並び、まるで迷路のよう。それ自体が呼吸し、諸味の発酵に適した環境を保ち続けている杉桶。歳月を重ねた杉桶と熟成が進んでいく諸味の、芳醇な香りに満たされています。

 今度は蔵の外から階段を上がり、2階の小さな扉から蔵の中へ。そこは床に杉桶の口が整然と並び広がる、壮大な空間です。杉桶には茶褐色のねっとりした液体が満たされていて、奥に進むと冬(取材時)なのに、もわっとする暖かさと、香ばしさを含んだ空気を感じます。

「なかに入っている液体が、諸味です。この土地が持つ船づくりの技術を活かし、職人が手入れをしやすいように桶の上に木のデッキが敷かれました。職人たちはデッキの上から諸味を見守っているんです」と山西さん。諸味は、蒸した大豆と煎った小麦を混ぜ、種麹を加えた「醤油麹」を食塩水と一緒に仕込んだもの。いわば醤油の赤ちゃんであり、杉桶はゆりかご。ここで一年半から二年程度の時をかけて発酵・熟成し、少しずつ醤油になっていきます。

「夏は、36度前後の気温で麹菌の発酵に適している。ぷくぷくと空気が湧き出る音がよく聞こえます。秋冬は、マイナス気温で空気が乾燥してきれい。この小豆島の温暖で雨が少ない気候が、醤油には向いています」

瀬戸内海に浮かぶ小豆島は、淡路島に次いで大きな島。高松、姫路、岡山などとフェリーでの往来が盛んです。

 面白いことに同じ屋根の下に並んでいても、蔵や桶の固有の癖があり、同じものは二つとないといいます。「生き物ですからね。ひとつひとつ機嫌が違うんですよ」と続ける山西さん。夏は元気に湧き出して、秋冬は音を立てずに静かに眠り、ゆっくり育つ諸味。温度や空気の変化を受けながら、この蔵に浮遊する、発酵を助けてくれる200種以上の酵母菌と結びついて熟成が進みます。

 とはいえ、杉桶に諸味を入れてただ放置しているわけではありません。「醤油づくりで大事なのは〝一麹、二櫂(かい)、三火入れ〟と言われています。この蔵は、櫂にあたる場所。諸味をよくするために、職人が日々ひとつひとつ観察して諸味に入る空気の量などを調節しています」

 こうした環境づくりと細やかな手入れにより、諸味は第一次発酵である乳酸発酵、第二次発酵である酵母発酵を経て、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味、香りが醸し出されます。

杉桶は、今や職人がいないため希少なものですが、丸島醤油では190もの杉桶があり、
中には「明治38年」につくられ120年近く現役のものも。
竹で作られたタガが冬は緩くなるというのは、杉が呼吸して発酵・醸造を促しているという証拠。
醤油の質を左右する、原料の丸大豆
製麹を経た醤油麹麹を食塩水と合わせて「諸味」になります。
麹づくり(上)は、「一麹、二櫂、三火入れ」といわれるほど醤油にとって大切な工程。加熱処理した大豆と小麦に麹菌を混合し、
製麹室で麹菌を約3日3晩、生育。最後は杜氏がその出来を見極めます。

職人の五感と経験

醤油づくりの仕上げ

 そして、圧搾工程へ。諸味と、「濾布(ろふ)」という布を何層にも重ねてその自重と合わせ圧をかけ、液体が下に落ちる仕組みです。ビルの3階ほどの高さに積まれた諸味。なんと、400層にもなるそう。この工程を3日間かけて行い、搾り出された醤油は「生揚げ」と呼ばれます。

 その後、火入れへ。火入れは、醤油独特の香ばしさを引き出す大切な作業。「職人は香りを見極める。感覚を養うには、3年やそこらの経験ではききません」と山西さんは言います。そうして、諸味を育てる長い年月に加え、職人の五感と経験、細やかな世話によって、杉桶仕込み有機醤油はつくられているのです。

 さて、そのお味は? 少し舐めただけでも塩味のなかにまろやかな甘味と香りのよさが際立ち、おいしいことがすぐにわかります。そしてコクと丸みもあり、どんな料理でも滋味深く仕上げてくれるような味わい。時間をかけてじっくり熟成させるからこそ、深い芳香と風味が宿るのでしょう。

布を使って諸味を濾こし、“生揚げ(きあげ)醤油”を生成していく

醸造した諸味と濾布を重ねて搾る圧搾という行程では、3日間をかけて醤油が抽出されていきます。
醤油になる液体と固体に分離され、搾ったあとに残る固体部分は、小豆島の農地にて肥料として活用されるそうです。
圧搾後は、製品化していくための仕上げである「火入れ」の工程へ。

天然醸造醤油の復活

〝命のある大豆を〞

 しかし、かつてはこの伝統的なつくり方が、許されない時代がありました。敗戦後、食料不足解消と製造効率を重視したGHQの指導により、本来の「丸大豆」ではなく、脂肪分を食用油として搾った後の「脱脂加工大豆」の使用が推奨されたのです。日本中の蔵元が、それに従わざるをえませんでした。

 その後、高度経済成長が到来。ますます効率優先の大量生産が求められましたが、そこで丸島醤油は天然醸造醤油の復活に踏み込むのです。

「そのきっかけとなったのが、桜沢如一先生の言葉でした」そう語るのは、丸島醤油と共に長年仕事をする純正食品マルシマの社長・杢谷(もくたに)正樹さん。丸島醤油の創始者一族のおひとりで、山西さんとは幼馴染。自社でもオーガニック食品の製造販売をしながら、醤油づくりの原料の仕入れや販路開拓も手がけています。

「当時、私の父が体調を崩しました。その時に病床で桜沢如一先生の本を読み込んでマクロビオティックの食養生を実践したところ、無事に回復したんです。その後、ご縁があり桜沢先生を丸島醤油にご招待して、よりよい醤油をつくるご相談をすることになりました。

 工場を見た桜沢先生が仰ったことが、父に大きなショックを与えます。桜沢先生は、手に握った材料を見せながら『この大豆は、畑にまいて芽が出るのか? 命がないじゃないか』と仰ったんです。脱脂加工大豆でつくることが業界内で当然になっていたなかで、父は〝命のあるものを食べろ〟の意味を深くかみしめて、丸大豆による天然醸造醤油の本格的な普及に力を入れました」

 しかし、つくってもなかなか売れず、支持を得るまでには時間がかかり、一升瓶の醤油を車に積んで全国行脚をする日々が数年続きます。

「でも、父は諦めなかった。職人肌の父には『おいしくないものは売れない』という思いがありました。それを支えたのは、食養生によって生きのびたという強い体験。そして大量生産を強いられた長年の体制への反骨心もあり、蔵を支え続けていた丸島醤油の職人たちの執念もあったでしょう。効率優先の生産体制が仕上がっている状況から昔ながらの伝統製法に舵を戻すなんて、途方もないエネルギーですよ。けれど、『いいものは残さないといけない』という一念で、自分たちの食の理想を追求したというわけです」


 食養生によって救われたこと、そして先人たちの醤油づくりや瀬戸内の自然への、いわば〝恩返し〟ともいえる、伝統製法への回帰。数年後、世の中では公害問題などから自然回帰運動がムーブメントに。自然食のよさに気がついた人々も増え始め、天然醸造醤油も徐々に受け入れられるようになったのです。

 変わらぬ醤油づくりを

「原料からの教え」を守り

 

 時は流れ、令和の今。避けて通れない課題が立ちはだかっています。「原料の調達です。天候不順にふりまわされながら、大豆や小麦の農家さんが人生をかけて、有機の作物を作ってくれています。宮沢賢治の詩に〝日照りの時は涙を流し、寒さの夏はおろおろ歩き〞(*原文はカタカナ表

記)とありますが、私たちもそうやって自然の恵みを頂いてつくっている身。こちらも必死です。農家さんと何年もお付き合いをしながら信頼関係を築き、よりよい材料を手に入れ続ける努力をする必要があります」

 自然環境や、社会情勢の変化。数十年間だけでも状況が目まぐるしく変わる時代に、伝統的な醤油をつくり続ける意義を、最後にお二人にお聞きしました。

「現在、醤油は全国に大小多くのメーカーがありますが、地域ごとの個性はかけがえのないもの。土地の味を、守っていかないといけません。昔ながらの醤油は、400年の歴史のなかで信頼が証明されている。土地の味を守り続けていくには、原料の状態を見て、その性質に合わせて丁寧につくる。つまりは『原料からの教え』を守る一心です。この先どんなに機械技術が進んでも、職人の腕が必要なんです」と、杢谷さん。

 山西さんが続けます。

「よい醤油ができる環境をつくる。時間を惜しまずに焦らず待つ。そしてつくり手が精魂かけて変わらぬ安心安全なものを提供する。それが私たちの使命です」

 主役にはならないけれど、和食をおいしくしてくれる一番の脇役である、醤油。だからこそ、素材のよさを最大限に活かしてきちんとつくられたおいしい醤油を使い続けたい。伝統が途絶えぬようつくり続けるつくり手の歴史や思いを知り、そんな気持ちを強くしました。

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純正食品マルシマ

杢谷(もくたに)正樹さん

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丸島醤油株式会社

山西健司さん

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ともに丸島醤油の創始者の一族で、醤油づくりに奮闘する祖父、父の姿を見てきたお二人。大きな設備が必要なため、何社かで桶をシェアしたり協業するのは醤油業界ではよくあること。今回訪ねた「丸島醤油」も同じ集落にあった7軒の蔵で創業した会社です。
代を重ねるうちに会社の規模も大きくなり、山西さんはつくる立場となり、杢谷さんは販売する立場となりました。

小豆島の醤油文化を伝える「醤の里」

小豆島には明治時代に建てられた醤油蔵や醸造場が建ち並ぶエリアがあり、「醤の里」と呼ばれています。今は使われなくなった桶や井戸のつるべなどがところどころに残り、趣のある街並み。小豆島を含めた香川県内の天然醸造による醤油づくりは、文化庁の登録無形民俗文化財の第1号に登録されています。

オーサワの杉桶仕込み醤油ができるまで

オーサワの杉桶仕込み有機醤油

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