オーサワの小豆島てのべそうめん

小豆島の光と風
職人たちの技が紡ぐコシと風味

小豆島の光と風

職人たちの技が紡ぐコシと風味

瀬戸内の恵みを浴びて、

そうめんづくりは連綿とつづく

『箸分け』が終わった麺を、

「ハタ」ごと干し場へ移動

『門干し』『箸分け』の工程へ

圧力で伸ばし、撚って伸ばし、麺を鍛え続ける

特集

手延べ
そうめん

もともとは、奈良時代に遣唐使によって日本に伝えられたという長い歴史を持つそうめん。
「索餅(さくへい)」という、小麦粉を練り縄状にねじった菓子餅がその起源だそうで、宮中では七タの儀式に欠かせない供え物でした。
伝統的な製法である「手延べそうめん」の主な材料は小麦粉、塩、水、油といったシンプルなもの。それだけに、その土地の水や気候が大きく影響します。そして、職人の経験と技術が問われます。つくり方ひとつで、大きな味の違いが生まれるのです。
その土地で育まれた食材をいただくマクロビオティックにおいて、国産素材でつくられた「手延べそうめん」は、夏だけでなく冬も楽しめるおいしい食材のひとつ。今回は、土地の恵みを存分に活かした製法を今に残す、香川県・小豆島をたずねました。

文/柳澤智子

撮影/坂井竜治

小豆島の光と風 職人たちの技が紡ぐコシと風味
小豆島てのべそうめん

つくり手の現場から

ー オーサワの小豆島てのべそうめん

小豆島の手延べそうめん

風に絹糸のようになびく

真っ青な空を背景に、ずらりと並ぶ〝天日干し〟されたそうめん。
つややかで、シルク糸のように繊細な細さ。風に吹かれ静かに揺れる様子は、天女の衣か、ハープの弦か……。この美しい光景が、小豆島のところどころで広がっています。
この島は瀬戸内特有の、雨が少なく穏やかな気候、そして良質なごま油などの原料に恵まれ、そうめんの三大産地のひとつとして長きにわたり知られてきました。
その味を支えているのは、明け方から夕方まで切れ目なく続く、職人たちの細やかな仕事です。

今回訪れた「オーサワの小豆島てのべそうめん」を製造している「マルカツ製麺所」では、ふたりの男性が立ち回っていました。
ひとりは6代目の代表・三木政人さん。もうひとりは、島内で別のそうめんメーカーの工場長まで勤めたこの道40年以上のベテラン・元濱豊さんです。
以前は、三木さんとお母様のこずえさんのふたりで現場を切り盛りしていましたが、今は元濱さんも加わって100年続く「マルカツ製麺所」の味を守っています。

日差しや風向き、そうめんの乾燥具合を観察して、“天日干し”の「ハタ」を細やかに移動させる三木さん。
グルテンの繊維をととのえるため、日本酒づくりをヒントにモーツァルトなどのクラシックやジャズを流したりしているそうです。

手延べそうめんの違い

機械そうめんと

そうめんには、〝機械そうめん〟と〝手延べそうめん〟の2種類があるのをご存知でしょうか? 見た目は似ていますが、製法が大きく違うため味も食感も別もの。
機械そうめんは、ローラーなどで薄く平坦にした生地を端から細く切っていくものです。
一方、手延べそうめんは「切る」のではなく時間をかけて「伸ばす」という伝統的なつくり方。板状にした生地を、様々な工程を重ねて「撚り(より)」をかけながら長く細く伸ばしていく。さらに、工程の間にも生地を何度も寝かし、熟成させていく。それによりグルテンの繊維が緊密に絡み合い、強いコシのある麺が生まれます。

また伸ばしていく段階で、乾燥や、麺同士がくっついてしまうことを防ぐため、植物油を塗ることも特徴。小豆島では、おいしさや風味が保たれるごま油を使用しています。

そんな手延べそうめんは食べるときのコシも、ふわりと香る風味も、段違い。茹でてから時間が経っても味が保たれると言われています。

「おで」が味とコシをきめる

明け方からの生地づくり

元濱さんも続けます。「夏場は温度も湿度も高いから、速く練らないといけない。冬は水が冷たく生地も硬いまま。だからといって水をいれすぎると、柔らかくなってしまう。柄杓一杯の分量で変わるから、見極めは難しいですよ。長く練ったらいいわけでもない。この15分が、勝負です。ここで手間をかけることで、きれいでおいしいそうめんが生まれるんです」 

早朝から始まる工程を拝見しながら、お話をお聞きしました。
「そうめんづくりは、小麦粉と塩水を混ぜる〝おで〟という作業からはじまります。
練ることで、弾力と粘りがでる。これが、そうめんのコシや味わいにつながる、一番大切な作業。練り方も水の量もいつも同じではなく、その時季の気候や、小麦粉の種類や状態に合わせて調整します」(三木さん)

そうめんの出来を左右するこの工程。お二人は五感を研ぎ澄ませながら微調整を繰り返し、生地づくりに集中します。

朝5時。国産小麦粉と塩、水を混ぜ合わせ練る作業から1日が始まります。
「この“おで”が本当に難しい。継いだ当初は叔父から助言をもらって試行錯誤をしていました」(三木さん)。

麺を鍛え続ける

圧力で伸ばし、撚って伸ばし、

生地を麺にしていく最初の工程が〝板切(いたぎ)〟。丸太のような塊となった生地を、約10㎝の厚さの板状に切り出します。〝麺帯〟となった生地を重ね、圧力をかけて伸ばす〝圧ぺん〟を繰り返す。それにより弾力、つまりコシが出てきます。
その後は、ごま油を塗りながら麺帯を棒状に伸ばす〝油返し〟、「巻き機」で撚りをかけていく〝中より小より〟へ。生地の塊は、徐々に麺の形に近づいていきます。
工程に合わせて使用する道具を設置して、生地を移動させて……それぞれの段取りを流れるように進めていく三木さんと元濱さんは、息がぴったり。アドバイスをもらう師弟関係であり、そうめんづくりの相棒でもあるお二人。三木さんは〝おで〟をきちんと、入念に行うことで「麺の丸み」が生まれることを、元濱さんから学んだと言います。
「水分が多いと重みできれいな丸にならなかったり、不揃いになったりします。おで方次第で、麺の丸みが維持される。それがよい食感につながるんです」

そして、前半の締めともいえる〝かけば〟に。これは、棒状になった生地を「かけ機」でどんどん引っ張りながら生地を撚り、さらに細く麺状に伸ばす工程。 直径1㎝ ほどになった麺帯がぐるぐるとかけ機にかけられ3〜4㎜ ほどに細く伸びていく様子は圧巻! 味わい深い機械の動きは、ミシンのような、繭から糸を取り出すのに使われた座繰り機を見ているようで、どんどん変わる麺の姿に目が離せません。
「生地がきちんとできていないと、ここでプツンと切れてしまう。今日もよくできた、とほっとしますね」(三木さん)

生地を板状に切り出す“板切”の後、“油返し”で油を塗りながら伸ばしていく。つづいて、棒状になった生地を「巻き機」にかけて撚る、“中より小より”。
ここでも刷毛で油を塗りながら、蚊取り線香のように螺旋形に麺を伸ばし、撚りをかけていきます。「生地同士がくっつかないように油を塗ります。
小豆島では、昔からごま油を使うんです。酸化しづらくて風味がいいんですよ」(三木さん)

 心がける

待って熟成させることを

 

できあがった麺を2本の「クダ」とよばれる道具に8の字にかけ、「寝びつ」にいれ2時間ほど寝かせます。その後、寝かせた麺をさらに引っ張り、3㎜ の太さにする〝小引き〟を経て再び寝びつへ。
何度も寝かせることで麺が鍛えられ、コシが強くなり、おいしいそうめんに近づきます。
「手延べは、工程ごとに『待つ』ことで熟成させながら麺を伸ばすもの。朝から職人がそばについて、触りながら世話をしないと、きれいに伸びてくれません。職人は、最初に練った以上は最後まで『てご(=手伝い)』してやらないといかんのです」(元濱さん)

そうして熟成させた麺を、「伸ばし機」にかけて伸ばし、「ハタ」という乾燥台に引っ掛けます(〝門干し(かどぼし)〟)。そのとき、くっついている麺を2本の長い箸を使ってほぐすのが、〝箸分け〟という工程。こずえさんはじめ職人さんたちはこともなげにひょいひょいと箸を動かすものの、体験させていただくと実に難しい。そうめんづくりが様々な技術の集積でできており、一朝一夕ではできないことがわかります。

この工程を経て、麺は太さ0.8㎜ のそうめんになります。以前は全て箸を使った手作業だったのですが「今は、伸ばし機があるので楽になったわ」と笑うこずえさん。それでもお休みの日は、雨の日だけ。
お父様の時代から長年にわたり毎日そうめんをつくり続けています。「機械にまかせられる工程がもっとないか考えはするのですが、難しい。いくら新しい技術を取り入れても、人の手と目が欠かせないのです」と三木さんは話します。

50年以上使われる“骨董品”だという「かけ機」で行うのが“かけば”。強く撚りをかけながら麺を細く伸ばしていきます。
「かけ機といっても、勝手にきれいな麺にしてくれるわけではない。その日の生地の様子を見て、回転を合わせていかないといけません」(元濱さん)。
その後、“門干し”、“箸分け”の工程へ。

太陽と風が旨味を加える

「天日干し」

 

さて、いよいよ〝天日干し〟です。「ハタ」ごと麺を外へ出し、天日にあてます。
「太陽に当てた方が、紫外線の作用なのか旨味がさらに増すんです。あとは、乾かすための風を読むことも大切です。ここは山あいにあるので山風が多いのですが、山風は静かで低温の風。海風は激しく吹く高温の風。風を読みきれないと麺が切れてしまうこともある。天気予報は常にチェックしますし、やっと肌の感覚や唇の乾きで湿度の具合もわかるようになってきました」(三木さん)

空気の状態に合わせ麺を干す作業は、経験と五感が問われます。
「そうめんとの対話ですよね。日差しや風向きは常に変わる。『ハタ』の向きを変えたり、乾燥しすぎて切れてしまわないよう地面に水を撒いたり、『ミミ』(そうめんの吊り具合を調整するハンドル)を操作して麺をゆるめたり。様子を見ながら駆け回っています」
 
小豆島の風物詩とも言える、青空を背に揺れる白いそうめん。ごま油の香りが風に乗り、近くを通る人に「いい香りですね」とも言われるそう。ですがその裏には、白鳥の水かきのごとく絶え間ない、職人たちの働きがあります。

そうめんづくりは、ここまでの工程でじつに8時間。さらに室内干しで1日寝かせ、断裁する〝小割り〟を経て製品となります。元濱さんが言います。「手間をかけたかどうかは、商品になった見た目では分かりません。だけど、〝おで〟から始まり、一つひとつの仕事がきれいに輪になって、つながっているんです」。

“箸分け”が終わった麺を、「ハタ」ごと干し場へ移動します。“天日干し”の後、室内で1日寝かせて、そうめんは完成。
根元で断ち落とし、長さ19cmに断裁する“小割り”の後、結束し紙を巻いて、ようやく製品になります。

瀬戸内の恵みを浴びて、そうめんづくりは連綿とつづく

職人たちの想いを継いでいく

手延べにかける

 

「同じ銘柄の小麦粉でも小麦が育った畑や土が違うから、練ってみないと分からない。季節や風向き、天候を読み取ることもふくめ、すべて自然との対話です。毎日『今日はどんなふうにできるんだい?』と心の中で語りかけています」

小豆島の味と技術を守るべく日々奮闘する三木さんはそう語ります。
機械の進化や、工場ごとの設備の違い、そして後継者不足も重なり、そうめんをめぐる状況は年々変化しています。その中でも三木さんは、先輩の職人たちとの交流を深めたり、そうめんの魅力を広く発信する「全国そうめんサミット」にたずさわったりと、時代に合わせたチャレンジを続け、小豆島のそうめん産業全体を盛り上げる活動もしています。そのたゆまぬ情熱は一体どこからくるのか、最後にうかがいました。

「修行を終えて母と二人で製麺を始めた当初は自分自身不安なことも多く、毎日のように叔父の助けを借りていました。ですが、皆さんの口に入ったときに『おいしい』と言っていただいて、とても嬉しかった。真心を込めて丁寧にそうめんをつくり、お客様に少しでも笑顔に、幸せになっていただければ嬉しい。そんな気持ちは変わりません」

亡きお父様の仕事を継いで、未経験からとびこんだこの現場。今もつくったそうめんは毎日食べて、コシや味わいを確かめているそうです。「仕上がった麺の状態や輝きをみて『旨そうだ』と感じる時があります。味をよりよくしていくために、その感情を忘れないようにしています。

色々な職人さんに話を聞いていると、考え方は皆違うもの。立地によっても、つくり方は違いますから。ですが、その手順の丁寧さは小豆島が一番だと聞いたことがあります。手延べそうめんのおいしさを支えているのは、伝統を守ってきた職人たちの想いでもあります。僕も自分のつくり方を磨きながら、これからも職人たちの想いを継いでいかないといけません」

三木さんの真直ぐなまなざしに、伝統を未来へと継いでいく決意を感じました。

三木さんは継いだ当初から、叔父様はじめまわりの職人に助言を求め、それを書き留めたメモが何冊も残っています。
師である元濱さんは、そうめんだけでなく海苔職人のキャリアも持つベテラン。
食にまつわる様々な知識を三木さんに伝えています。

マルカツ製麺所

三木政人さん

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三木さんは父の克己さんが営んでいた製麺所を継ぐ予定はなかったのですが、克己さんの逝去を経て継承を決意。2013年に高松からUターンし、1年間の修行ののち、6代目に就任。いつも前向き、研究熱心なそうめん職人のホープとして評判。

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