オーサワのひじき
特集
ひじき
カルシウム、マグネシウム、食物繊維など、体に必要な栄養素が多く含まれるひじき。
国内で古くから食べられてきた海藻のひとつで、ミネラル成分が少ない日本の風土において、大切なカルシウム源だったといわれています。
日本にはひじきの産地が多くありますが、オーサワのひじきは、三重県伊勢志摩産の天然のもの。伊勢湾の荒磯で揉まれ、干潮時には天日や潮風に晒される厳しい環境で育つため、しっかりとした歯応えと風味のよさをもっています。
そして、ここにしかない独自の加工製法も、おいしさの理由。今号では、ひじき漁の旬を迎えて海女さんで賑わう伊勢の海と、製造・加工場を訪ねました。
文/野村美丘(photopicnic)
撮影/坂井竜治
イラスト/池田 系
つくり手の現場から
ー オーサワのひじき
全国的な特産物
伊勢ひじきは「美し国」が生んだ
浅草海苔、日高昆布、鳴門わかめー。特定の地域名を冠して呼ばれる海藻にはいずれも、その品質を保証するブランドのような意味合いが含まれています。伊勢ひじきも、然り。江戸時代にはすでに伊勢の名産品として世に知られていました。というのも、伊勢志摩でとれる海藻は伊勢神宮にお供えされていた「神饌」で、いわば神さまのお墨つき。おいしいうえに、かさばらず日持ちもするお伊勢参りのお土産品として重宝され、全国的にその名が広まるところとなりました。
そもそも、なぜ伊勢のひじきは良質なのでしょうか。それは、太平洋に面し、伊勢神宮の鬼門を守る朝熊ヶ岳をはじめとする豊かな山々を擁しているから。山の養分が川を通じて海へと至り、太平洋の黒潮の栄養分と混じり合います。さらに岩礁で遠浅のリアス海岸という、海藻の成長に適した伊勢湾の地形が相乗効果に。このような環境が、コシが強く、身づまりがよくて茎の太い、立派なひじきを育てるのです。
伊勢は、海の幸と山の幸に恵まれた「美し国」。美し・甘し・旨しを併せ持った土地だからこそ、伊勢神宮の鎮座する場に選ばれたのだと『日本書紀』にも記されています。ひじきはまさに、美しの国を象徴するような産物なのです。
継承されてきた海藻加工
時代の流れに左右されず
「うわべ食品工業株式会社」は、その伊勢にある老舗の海藻加工会社です。創業者の上部家はもともと芝居小屋や小売店を営んでいました。伊勢神宮のお膝元で、全国から集まる人々に娯楽を提供してきたのです。戦後間もない1948年、この地で古くから盛んに行われていた海藻加工業を開始。のちに、手広く展開していた商売をこれに一本化したそうです。
「海藻は、スーパーのなかでもいちばん地味なカテゴリー。その商売だけを残したということですね。逆にいえば、市場に左右されない堅実な分野を選んだわけです」
そう説明してくれた上部友義さんは、同社を営む3代目。東京の美術大学を卒業後、異分野の会社に就職、2年後に家業に就きました。「商社などに勤めて、後の商売の販路につなげるのが普通かもしれません。が、私はまったく別の仕事を経験するほうがプラスになると考えたんです。ものづくりやサービスという観点では、業界問わず共通点があるはずだと思ったんですね」
外の世界で得た広い視点をもちながら、地場産業に深く根を下ろす。上部さんは家業を継ぐにあたり、一見相反するその両要素を、自らの意志で手に入れたのでした。
長ひじきか、芽ひじきか
天然か、養殖か
ひじきは東アジアに生育し、日本では縄文時代から食されていたことがわかっています。カルシウム、マグネシウム、食物繊維などが豊富で、国内においては長く健康食として親しまれてきたのです。
現在、国内で流通しているひじきのうち約9割が韓国または中国産で、そのほとんどが養殖もの。残り1割が国産で、こちらは基本的に天然もの。うわべ食品では国産の天然ひじきにより価値をおき、力を入れています。なかでも「オーサワの長ひじき」と「オーサワの芽ひじき」は、入札時の格付けが高い伊勢志摩産の商品です。「茎の部分が長ひじき、葉の部分が芽ひじきと呼ばれます。海の沖に張ったロープに挟み込んで養殖されるひじきは、海面に浮かぶ葉が浮きとして育つので、葉が多く身が軽くなります。対して天然ものは海中で常に荒波にもまれ、干潮時には直射日光や潮風にさらされる厳しい環境にも耐えるため、葉の身がしっかりつまり、茎が太く育ちます。天然のひじきは、養殖や輸入ものに比べて茎の部分が多く、風味が段違いに豊かです」(上部さん)
オーサワの長ひじきができるまで
伝統的な蒸し上げ法
伊勢ひじき独自の
長崎県、大分県、愛媛県、千葉県などもひじきの産地として有名ですが、三重県の特に伊勢のひじきが名高いわけは、この地の伝統的な蒸乾法にもあります。茹でずに蒸し上げる製法で、伊勢方式とも呼ばれています。うわべ食品が採用しているのも、もちろんこの伊勢方式。さらに、熟成の期間や火の入れ方次第で、ひじきの仕上がりは大きく異なります。
「蒸す前に半年〜1年ほど寝かせることで、えぐみや渋みが抜けて、おいしくなります」
加工場を案内してくれた職人さんがそう教えてくれました。ひじき本来の滋味深い風味や食感はしっかり残す。調理する際にも煮含みがよく、でも煮崩れしない。そんな「いいひじき」になるよう均一に蒸し上げるのは、先代から受け継ぐ技と職人の長年の経験によるもの。蒸し上がったばかりのひじきは磯の香りが豊かで、艶やかな黒色。実際に試食すると、意外なほどにみずみずしく、ほくほくとした食感でした。
混入した異物との戦い
ひじき加工は
オーサワのひじきが商品になるまでには、海からひじきを刈り取り、天日干し・熟成させたあとに水洗いをし、蒸し上げ、再び乾燥させ、選別するという工程を経ます 。一見シンプルに思えるこの工程、実は海藻加工品のなかでいちばん手間がかかるのだそう。それは、ひとことでいえば「異物との戦い」。
「天然ひじきには海中のさまざまなものがくっついています。人工物だけでなく貝殻なども。海藻は、海の生物の産卵場所でもありますからね」
たとえばわかめや昆布は葉が大きいので水洗いすれば簡単に異物除去できますが、ひじきはその構造上そうはいきません。ふるい、風力、色彩、磁力、静電気、金属探知と何種類もの選別機によって異物を取り除きます。
「高性能の機械設備を使っていても、やっぱり人の手は入れたいんです。そのため、最後は人の目でしっかりとチェック(目視選別)しています。明確な言葉や数値にはできませんが、人の感覚や塩梅といったより繊細でアナログな要素は、機械が真似できない、人間だけができることだと思っています」と上部さん。
いいものづくりが実現する
人の目と手を介してこそ
人を介在させることを大切にしているのは、原料の調達においても同じこと。「想いのつまったひじきをおいしく仕上げることが使命」との考えから、上部さんは定期的に産地に足を運んでいます。現場視察には、生産者たちの個性を知る目的もあるといいます。
「不思議なことに、お人柄のよい方が採取して送ってくださるひじきは、おいしいんですよ」
そうした漁師さんや海女さんたちは、決してとりすぎることのないよう、節度をもって自然と接し、海からの恩恵にあずかっています。それは海や海藻を守るためだけでなく、まわりまわって自分たちにも還ってくることを知っているから。
また、三重県はじめ各産地でとれたひじきをおいしく加工して、地元へお返ししたいという想いから、うわべ食品では全国の学校給食にひじきを卸しています。ここ10年ほどでその数がかなり増えているとか。つまり、おいしいひじきを食べている子どもたちが日本中にいるということ! 小さい頃から本物の味を知っておくことは、その子の将来の宝になるに違いありません。
主役にはならない〝地味〞な食材だけれど、優れた健康食として長く日本人の食卓に上がってきたひじき。豊かな山と海からの贈り物を、大切に食べつないでいきたいものです。
オーサワの芽ひじきができるまで
伊勢神宮のお膝元、祭事でも主要な地とされた大淀にあるうわべ食品工業株式会社。
創業時から受け継ぐ伝統的な製法と、高性能の機械技術の両方を用い、
安全と美味しさを追求した魅力ある海藻商品を提供している。
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第七回 改めて食と農の関係性を模索する
「フラワリッシュ」は、奈良市鳥とりみちょう見町のカフェにてランチ・弁当販売及び、マクロビオティック関連商品の販売、料理教室の開催、各種講演会等の活動を行っています。2009年より「環境勉強会」を毎月開催し、「One peaceful world」などで活躍された故・大場淳二先生、正食クッキングスクールの岡田昭子先生、日本CI 協会元会長の故・勝又靖彦先生をお招きし、連続で講演会を開催させていただきました。
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